日本成長戦略会議が選定した17の戦略分野を、仕組み・市場規模・日本の強み・主要プレイヤーの観点から徹底解説します。
次世代半導体は、AIの進化と自動化社会を支える「現代の産業のコメ」といえます。フィジカルAIと呼ばれる、現実世界で考え・行動する次世代AIのための高速な演算処理を実現するため、2nm世代など極端に進化した微細化技術や、光電融合といった新技術が投入されています。
AIサーバー向けの高性能チップや、車載・エッジAI端末の需要が爆発的に拡大しています。日本の強みである半導体製造装置や後工程材料(基板など)、超精密アクチュエータ技術との掛け合わせで、莫大な成長市場を生み出す可能性を秘めています。
国内ではラピダスが2027年の2nm世代量産化に向けて拠点を立ち上げているほか、TSMCが日本に製造拠点を稼働させるなど、経済安全保障上の要請から「日の丸半導体」の復権と供給網の再構築が官民一体で進行しています。
▲ フィジカルAIの基本構造。センサーが世界を認識し、AIが判断・計画、アクチュエーターが行動する。仮想空間での学習ループで安全・高速に性能を向上させる。
データをAIが利用できる状態に整備する「データプラットフォーム」と、政府・自治体のDX基盤セキュリティ強化の2本柱です。AI普及でデータ処理量が爆発的に増え、他国プラットフォームへの依存が経済安全保障上のリスクになっています。
政府・地方のDXは、サイバー攻撃・大規模災害時にも機能を維持できる「高セキュリティ・耐災害性・自律性」が条件。国産クラウドの育成が急務です。
産業データ・医療データ・行政データが外国のクラウドに保存・処理されると、経済安保上のリスクが生じます。EU(GAIA-X)がデータ主権確立を進めているように、日本も国産基盤を育てる必要があります。
製造業・医療分野の豊富なデータ資産。NECのサイバーセキュリティ技術、さくらインターネット・IDCフロンティア等の国産クラウド基盤。デジタル庁主導のガバメントクラウド整備。
▲ 国産データプラットフォームの役割。各産業のデータをAI対応形式に精製し、安全に活用できる基盤を国内に確立する。
NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の中核技術「オール光ネットワーク(APN)」が先行品目です。従来の電気信号変換を不要にし、光だけで情報を処理・伝送することで消費電力を従来比100分の1、伝送容量を125倍にします。
AI普及でデータ量が爆増する中、今のネットワークインフラでは処理しきれなくなる「ネットワーク危機」が迫っています。光通信関連市場は2030年に約53兆円(世界)と予測されます。
NTTが2019年に発表した次世代情報通信インフラ構想。地球規模の低消費電力・低遅延・大容量通信網を光技術で実現し、デジタルツイン・遠隔医療・自動運転を可能にします。
NTT・住友電工・フジクラ等の光ファイバー・光部品技術で世界トップクラスの競争力を持ちます。北米市場でのシェア拡大を起点に国際市場獲得を目指します。
▲ 従来ネットワーク vs オール光ネットワーク(APN)。電力1/100・遅延1/200・容量125倍の次世代インフラが地方DXから自動運転まで支える。
量子技術は、量子力学特有の「重ね合わせ」や「もつれ」といった現象を利用して、従来のスーパーコンピュータでは計算不可能な問題を一瞬で解く可能性を持つ次世代技術です。計算だけでなく通信(量子暗号)や高精度なセンシング分野でも革新をもたらすと期待されています。
創薬における高度な分子シミュレーション、金融ポートフォリオの最適化、新素材開発の加速など、膨大な計算量を要する分野でゲームチェンジャーとなります。周辺の極低温冷却技術、高真空・計測技術などの部素材に強い日本企業にも大きなビジネスチャンスが広がっています。
理化学研究所が純国産量子コンピュータの稼働を開始し、国内での実装が前進しています。AIと量子アルゴリズムを組み合わせた新たなアプローチや、米国(Google・IBM等)との国際競争が加速する中、産業界における実用的なユースケースの探索が本格化しています。
▲ 量子ビットと古典ビットの違い。「重ね合わせ」で膨大な状態を同時計算できるため、特定の複雑問題を劇的に高速化できる。
ウクライナ紛争で証明された「新しい戦い方」の核心は小型無人航空機(ドローン)です。安価で量産でき、高度な作戦効果を発揮するドローンは、従来の大型装備品の概念を覆しました。
政府は「防衛と経済の好循環」を目指し、防衛調達を初期需要として国内生産基盤を整備し、民生・輸出市場にも展開する戦略を取ります。2030年に国内8万台の供給基盤確立を目標とします。
防衛技術は民間転用(スピンオフ)が可能です。軍用ドローン技術→農業・物流・インフラ点検への展開、軍事衛星技術→通信・測位・気象観測など。防衛調達を呼び水にして産業基盤を育成します。
主要構成品(バッテリー・通信モジュール・カメラ)の多くを中国・海外に依存。三菱電機・川崎重工等の既存メーカーと、スタートアップ技術の融合が急務です。
▲ 防衛産業のデュアルユース戦略。防衛調達を初期需要として国内生産基盤を整備し、民生市場・輸出市場へ横展開する。
先行4品目(民間航空機・無人航空機・空飛ぶクルマ・ロケット射場)を含む最大のボリュームを持つ戦略分野。航空旅客需要は今後20年で約2倍、宇宙市場は2030年代に約150兆円と予測されます。
日本はB777・B787の重要部品サプライヤーとして高品質・認証取得実績を持ちます。今回は部品供給にとどまらず、機体インテグレーション能力(まとめる力)の獲得を目指します。
① 民間航空機:次期単通路機(B737後継)の仕様設計参画・認証取得
② 無人航空機:民生・防衛デュアルユース、目視外飛行ビジネス
③ 空飛ぶクルマ(eVTOL):2040年世界市場200兆円、先行者利益確保
④ ロケット・射場:H3ロケット信頼性向上・民間ロケット産業育成
GPS・通信・偵察に不可欠な人工衛星を国産ロケットで打ち上げる自律性確保が急務。北海道大樹町等の射場整備が進行中。
▲ 航空・宇宙分野の先行4品目。共通戦略は認証取得能力の向上と防衛産業との技術シナジー活用。
資源開発・インフラ点検・養殖・安全保障まで幅広く活用できる海洋無人機(海洋ドローン)が先行品目。水上・水中の無人航行体(USV・AUV・ROV)を指します。2030年頃には市場が1.5兆円超に。
日本は6,800kmの海岸線と200海里EEZという世界6位の広大な海洋権益を持ちます。造船技術・深海探査(しんかい6500等)のDNAをドローンに転用する狙いです。
①海底ケーブル・パイプライン点検 ②離島・離れ礁の海洋状況把握(MDA) ③水中資源探査 ④海上防衛(機雷捜索等) ⑤スマート養殖(海面)
EV・産業機器・ロボットに不可欠なネオジム永久磁石が先行品目。日本は高性能ネオジム磁石の製造技術で世界唯一の供給能力を持つ一方、原料の重レアアース(テルビウム・ジスプロシウム)は中国依存率90%超という構造的脆弱性を抱えます。
EV普及でネオジム磁石の世界需要は2040年に約27倍(0.6万t→16.1万t)に急増。中国の輸出管理強化が起きている今、供給基盤の多角化が急務です。
微生物・細胞・酵素を遺伝子レベルで設計・改変し、従来の化学工場に代わって素材・食品・医薬品・燃料を製造する「バイオものづくり」が先行品目。2030〜40年に約165兆円の経済効果が見込まれます。
原料に国内バイオマス・廃棄物を活用できる点が、石油依存からの脱却と経済安全保障に直結します。DNAを「プログラム」のように設計するという点で、バイオはデジタルと融合しつつあります(BioFoundry)。
日本はノーベル賞受賞者を多数輩出(山中教授のiPS細胞等)する基礎研究大国ですが、産業化・ベンチャー化が遅れています。AI・量子コンピュータを活用したAI創薬と、がんゲノム医療・mRNAワクチン等の先端医療の2本柱です。
従来の新薬開発(1兆円・10年)をAIで劇的に短縮・低コスト化することが狙い。バイオ医薬品(抗体・核酸医薬)の国産CDMO(受託製造)整備も急務です。
重水素(海水から無限に取れる)とトリチウムを超高温プラズマ(1億度以上)で融合させることで莫大なエネルギーを取り出す発電方式。太陽と同じ原理。CO₂ゼロ、燃料無限、核廃棄物少量という「究極のクリーンエネルギー」。
世界では国際核融合実験炉ITER(フランス)が建設中。民間ではHelion・Commonwealth Fusion Systems(CFS)等が2030年代の実証を競います。日本のKyoto Fusioneneeringも先行するスタートアップ。
超伝導コイル(高温超伝導体HTS)の革新で磁場閉じ込め型装置が小型・低コスト化し、民間資金が大量流入。「核融合ブーム」は実証フェーズへ移行しています。
▲ 核融合炉(トカマク型)の基本原理。重水素+三重水素が超高温プラズマで融合し、中性子エネルギーを熱として取り出して発電する。
先行2品目は①植物工場(完全人工光型)②陸上養殖。気候変動・人口増加・食料安全保障への対応として、完全制御された環境下での食料生産技術です。
植物工場はLED・水耕・空調技術で天候に依存しない安定生産。陸上養殖は閉鎖循環式(RAS)で海なし地域でもサーモン・フグ等の高付加価値魚介を生産できます。
橋梁・トンネル・上下水道等の老朽インフラのAI・IoT・ドローンによる点検・維持管理技術が先行品目。南海トラフ巨大地震・首都直下地震に備えたインフラ強靭化は社会的急務です。
高度経済成長期(1960〜80年代)に建設されたインフラが一斉に老朽化を迎え、人口減少で点検人員も不足。AI・センサー・ドローンによる自動点検・予防保全が解決策です。
コンテナクレーン・AGV(自動搬送車)の自動化・遠隔操作によるスマート港湾化が先行品目。日本の港湾コンテナ処理効率は欧米・アジア先進港湾に比べ低く、物流コスト競争力を損なっています。
太平洋における港湾機能の強化は日米同盟強化の観点でも注目されており、高市首相もウクライナ情勢を踏まえた安保上の重要性を強調しています。
先行品目はゲーム産業。任天堂・ソニー・カプコン・スクウェア・エニックス等を擁する日本ゲーム産業は「コンテンツ外交」の核心であり、世界ゲーム市場約30兆円(2024年)での存在感は絶大です。
AI生成技術・メタバース・クラウドゲームの台頭で産業構造が変化する中、先行者利益を守るための政策支援が焦点。ゲームIPの横展開(映画・アニメ・グッズ)は日本が最も得意とするソフトパワーでもあります。